岐阜地方裁判所 昭和50年(ワ)105号 判決 1978年5月30日
原告
川口友基
被告
中田千尋
ほか一名
主文
一 被告らは各自原告に対し金八、〇四二、〇八八円およびこのうち金七六九二、〇八八円に対する昭和四七年三月二一日から、同金三五〇、〇〇〇円に対する昭和五三年五月三〇日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は二分し、その一を原告、その余を被告らの連帯負担とする。
四 この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
一 被告らは原告に対し各自金一八、八五三、六〇〇円及び右金員に対する昭和四七年三月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二請求の趣旨に対する答弁
一 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第三請求の原因
一 (事故の発生)
(一) 日時 昭和四七年三月二一日午後四時三〇分頃
(二) 場所 岐阜県関市下有知四〇八九番地先県道上
(三) 加害車 普通貨物自動車(岐一そ九九三五号、以下甲車という)
(四) 運転者 被告中田千尋
(五) 被害車 自動二輪車(岐ま八七二号、以下乙車という)
(六) 運転者 原告
(七) 態様 美濃市方面から関市方向にむかつて県道上を南進中の乙車と、乙車の進行右側(対向車線)から、左側のガソリンスタンドに入ろうとして反対車線を横断中の甲車とが衝突したものである。
(八) その結果、原告は傷害を受けた。
二 (責任原因)
(一) 被告中田について
甲車の運転者である被告中田は甲車を北進させ、前記場所で右側のガソリンスタンドに進入せんとして右折し反対車線を横断するに際し、反対車線の対進車の有無を確認し対進車の安全を確認してから右折横断すべきであるのに、その確認を怠つた為に、反対車線を対進している原告運転の乙車を発見しないまま、その直前を右折横断して、乙車の進路を妨害し、もつて乙車をして甲車の前輪と後輪の中間部にある燃料タンクのすぐ後部に衝突させたもので、安全確認を怠つて右折横断を開始した過失があるから民法七〇九条に基き本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。
(二) 被告会社について
被告会社は甲車を所有し、これを被用者である被告中田に運転させて自己のため運行の用に供していたものでるから、自賠法三条に基き本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。
三 (原告の傷害程度と治療状況等)
(一) 病名 下顎正中部骨折の歯牙喪失、口腔内挫創、左下腿開放骨折、棘果部欠損、左膝蓋骨々折、右手Ⅱ基節骨、左手Ⅴ中手骨々折、顔面、右小指、左手挫創、胸部肩挫傷
(二) 治療状況
1 入院(中濃病院)
一回目 昭47・3・21~同9・23 (一八七日間、要付添)
二回目 昭48・9・19~同12・9 (八二日間)
2 通院
イ 中濃病院
昭47・9・24~同48・9・18 (実日数九日)
ロ 岐阜歯科大学
昭47・8・8~同49・3・30 (実日数三一日)
(三) 後遺障害(昭和四九年八月八日症状固定し、九級の認定を受けている)
1 両小指変形あり、又拘縮を共う。
2 左膝部運動障碍あり、レ線上骨欠損を認める。
3 左下肢長七七センチメートルで健側より一センチメートル短縮
4 欠損補綴による咀しやく障害、発音障害が存続
四 (損害)
(一) 逸失利益(一七、一六五、〇〇〇円)
原告の一八歳当時(昭和四八年)の逸失利益は賃金センサス昭和四八年第一巻第一表の産業計全労働者一八歳~一九歳の統計数値を、一九歳当時(昭和四九年)の分は同様に賃金センサス昭和四九年の同表の産業計全労働者の一八~一九歳の統計数値を、二〇歳以後の分は昭和五〇年賃金センサス同表産業計全労働者の各該当年齢の欄の統計数値をそれぞれ基準にしてこれに九級の後遺症の労働能力喪失率三五パーセントとホフママン係数を各乗じて事故当時の現価を算出すると別表のとおり一七、一六五、〇〇〇円となる。
(二) 家族附添費(一八七、〇〇〇円)
中濃病院へ一回目入院した一八七日間分で一日一、〇〇〇円の計算である。
(三) 入院雑費(八〇、七〇〇円)
中濃病院入院中のもので二六九日間で一日三〇〇円の計算である。
(四) 慰藉料(四〇〇万円)
四〇〇万円が相当である。
(五) 弁護士費用(一八〇万円)
五 (結論)
よつて原告は被告各自に対し右損害金合計二三、二三二、七〇〇円の損害賠償債権を有するところ、本訴ではそのうちの一部である一八、八五三、六〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和四七年三月二一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第四被告の答弁
一 (請求原因に対する認否)
(一) 第一項の事実は認める。
(二) 第二項の事実中、被告会社が運行供用者であることは認めるが、その余の事実は否認する。
(三) 第三項の事実は不知、但し原告が本件事故による傷害で後遺障害九級の認定を受けていることは争わない。
(四) 第四項の損害額の主張は争う。
二 (被告の主張)
(一) 過失相殺の抗弁
被告中田運転の甲車は本件事故現場附近において右折を開始したのであるがその際前方一〇〇メートル以上のところに原告運転の乙車を発見したが乙車が制限速度内で進行してくればそれ以前にガソリンスタンド内に進入できるものと判断したのである。しかるに乙車は一〇〇キロ以上の猛スピードで進行し甲車の横腹やや後方に激突したもので、甲車の燃料タンクの破損のひどさから乙車の速度が推測される。なお乙車のタイヤは相当に摩耗しておりブレーキがききにくかつたことを物語つている。したがつて相当程度の過失相殺がなされるべきものである。
(二) 損害加算額
左記治療費二、〇八四、七八〇円をも本件損害額に加算すべきである。
中濃病院分(一、六〇九、九三七円)と岐阜歯科大学病院分(四四六、二九三円)及び松本義肢製作所分(二八、五五〇円)
(三) 損益相殺
被告会社は本件事故に関し前記治療費合計二、〇八四、七八〇円の他、雑費として二五、〇〇〇円支払つている。なお原告は自賠責保険の後遺症分として一三一万円を受領している。
第五被告の主張事実に対する原告の認否
一 乙車のタイヤがかなり摩耗していても乾いた路面においては、新品のタイヤとその摩擦係数は変りがないものである。
二 損害加算額の主張中、岐阜歯科大学病院分については認めるがその余の分については不知。
三 損益相殺の主張中、雑費、自賠保険金については認める。
第六証拠関係〔略〕
理由
一 (事故の発生)
請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。
二 (責任原因)
(一) 被告中田について
1 成立に争いのない乙第一号証の一、二第二号証、証人服部勇の証言により甲車を写したものと認められる乙第三号証の三、四、証人羽田野信美、同三輪明人の各証言、同川口晴久の証言(後記採用しない部分を除く)と原告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く)並びに被告中田千尋本人尋問の結果を総合すると、
イ 本件事故現場は南方関市方面から北方美濃市方面に通じる幅員七メートルのアスフアルト舗装された平坦な直線道路でセンターラインの標示があり道路東側には大見石油のガソリンスタンド(以下ガソリンスタンドという)があること、なお本件道路上の見とおしは良好であり速度制限の規制はされておらず事故当時、路面は乾燥していたこと、
ロ 被告中田は、甲車(幅二・三六メートル、高さ二・三三二メートル、長さ九・〇五メートル)を運転し、関市方面から美濃市方面に向け北進中、右ガソリンスタンドに入るため対向車線を右折横断しようとしてガソリンスタンド手前で右の方向指示器を出し、センターライン寄りを進行し右折横断しようとした際、対向車があつたので一時停止し対向車が通過した後には、乙車が南進して来るのを望見したが、距離が遠かつた(同人はあとで現場で想起して約七〇メートル余前方の地点を指示している)のでそれ以上には乙車の速度、位置関係等を十分把握することなく乙車より自分の方が先に無事右折横断し得るものと速断し、発進後は時速一〇キロメートル位で右折横断しそれ以後は、乙車の動静には全く注意を払わず進行したところ、甲車のほぼ三分の一弱位がガソリンスタンドに入つた時点でブレーキ音と共に甲車の真中よりやや左後部の金属製の燃料タンク附近に乙車の前輪が相当の勢いで衝突し、その結果右燃料タンクが大破したこと、
ハ 他方原告は本件道路上を乙車(幅〇・七七メートル、高さ一・〇九メートル、長さ二・一一メートル、七五〇cc)の後部座席に弟(川口晴久)を乗せ、美濃市方面から関市方面に向け、かなりの高速度(六〇キロメートルの法定速度をかなり上廻る速度)で南進中、約四〇メートル余接近してはじめて前方自己の走行車線上を右折横断しかけている甲車を認めガソリンスタンドに入ろうとしていることは判つたが、自車が直進車であるところから甲車が停止して譲つてくれるものと考えそのままの速度で進行したところ、甲車がそのまま右折横断を継続しているのに気付きブレーキをかけ、ハンドルを右に切り衝突を避けようとしたが高速であつたため間に合わず路上に約一五・五メートル余のスリツプ痕を残した上、さらに一〇メートル余走行した後、かなりの勢いで甲車の前記燃料タンク附近に乙車の前輪が衝突し、その結果、原告は約四・六メートルとばされ路上に転倒し後記認定のとおりの傷害を受けた他、弟は一〇メートル余とばされ路上に転倒したこと、
以上の事実を認めることができる。右認定に反し乙車は法定速度内で走行していたとか、甲車は三〇メートル位に接近して急に乙車の走行車線に出て来た等の原告本人尋問の結果およびこれと同旨の証人川口晴久の証言はいずれも前記他の各証拠と対比して採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。
2 なお右に認定した事実から判断すると、被告中田が右折横断する直前にちらつとみたときの乙車の位置については、同人が指示する約七〇メートル北方の地点が誤つているとは考えられず、仮にこれよりいくらか遠目の距離があつたとしても、そのとき乙車はかなりの高速度で進行していたのであるから、この状況下で右折横断することは乙車の進行を妨害することになつて衝突の危険性が十分考えられる。また乙車の前記スリツプ痕の南端と衝突地点との間には前認定のように約一〇メートルの空走距離があり、これに右スリツプ痕の長さと乾燥アスフアルト舗装路面の制動距離として一般に言われているところや危険を感じてからスリツプ痕がつくまでの空走距離が速さに比例することなどを併せ考えると、乙車が仮に法定の最高速度である六〇キロメートルで走行しており且つ原告が本件時と同一地点で危険を感じて急制動の措置をとつていたとすれば本件衝突地点に至るまでに停止することができ事故の発生に至らなかつたでおろうと推認しうる。
3 以上の状況によつて考えると、被告中田は車長の長い甲車を運転して対向車線上の車両の通行を阻害するような状態で右折横断しようとしたのであるから、かかる甲車が十分右折し得るような余裕をもつてする必要がある、即ち右折横断に際しては、美濃市方面からの車両の動静に注意を払い少しでもそれとの接触の危険があればその通過を待つべきであるところ、これを怠り、乙車を認めながら乙車の動静、その速度や位置等に対する十分かつ適確な確認を怠つたものである。
他方、原告はかなりの高速度で乙車を走行させ、自車前方の対向車線から甲車が右折横断するかのように進行して来るのをもつと早期に望見し得た(本件県道上は前認定の如く見とおしが良いこと及び本件事故現場から北へ相当離れた地点で乙車と離合した車の運転手がそのバツクミラーで甲車の動静を認めている「証人羽田野信美の証言」こと等からも推認し得る)にもかかわらずこれに気付かず(その原因は前方不注視か注意力の集中不足によるかのいずれかであると推測する)急制動の措置を講じてもかなりの速度で甲車と衝突することが必至である地点に迫るまで前記速度で走行を続けた過失がある。
したがつて本件事故は原告、被告中田の右過失が競合して発生したものというべきである。
なお被告は乙車のタイヤが相当に摩耗していたから、これも本件事故発生に寄与している。
したがつて原告に過失ありと主張する。証人服部勇の証言により乙車を写したものと認められる乙第三号証の一、二によれば乙車のタイヤが相当摩耗していたことが認められるが、成立に争いのない甲第九号証に照らすと右摩耗が本件事故発生に寄与したと直ちにいえるかは疑問の存するところであり、他に摩耗が事故発生に寄与したとの事実を認めるに足る証拠はないというべきであるので、この点に関する被告の主張は採用できない。
4 上述の理由により被告中田は直接の不法行為者として民法七〇九条の責任があり原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。
5 そして原告と被告中田との各過失割合は、諸般の事情を総合して四対六とするのが相当である。
(二) 被告会社について
被告会社が甲車を所有し被用者を介し自己のためにこれを運行の用に供していたことは当事者間に争いがなく、被告中田に本件事故発生について過失があることは前記認定のとおりである。したがつて免責事由を主張立証するところのない被告会社は甲車の運行供用者として本件事故により原告が受けた損害を自賠法三条により賠償する責任がある。
三 (原告の傷害程度と治療状況等について)
原告が本件事故で受傷したことは当事者間に争いがないので、以下傷害程度、治療状況等について検討する。
成立に争いのない甲第一号証ないし第八号証と原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故により、その主張するような病名(請求原因三の(一))の傷害を受け、右傷害のため事故日の昭和四七年三月二一日より同年九月二三日迄の一八七日間、中濃病院で入院治療し、退院後の昭和四八年九月一九日から同年一二月九日迄の八二日間右傷害治療のための骨移植で右病院へ再入院する迄の間、実日数九日間右病院へ通院治療した他、昭和四七年八月八日から昭和四九年三月三〇日迄の間、実日数三一日間、岐阜歯科大学附属病院へ通院治療したが、結局同年八月八日症状固定し、両小指変形あり又拘縮を共う、左膝部運動障碍あり、レ線上骨欠損を認める、左下肢長さ七七センチメートルで腱側より一センチメートル短縮という後遺症が残つたこと、以上の事実が認められ右認定事実に反する証拠はない。なお右後遺症により原告が自賠法に規定する後遺障害第九級の認定を受けたことは当事者間に争いがない。
四 (損害について)
(一) 財産損害(弁護士費用を除く)
1 逸失利益
この点につき原告の主張するところは、原告が高校卒業後に就職するものと仮定して一八歳以降就労可能とみられる年限までの間の各年齢ごとの男子労働者の平均給与額を統計表によつて求めたうえ、年五分の割合による中間利息を控除してこれに労働能力喪失率三五パーセントを乗じて積算するというのであるが右主張には疑問がある。蓋しかかる統計表の数値を利用するには、特別の事情のない限り現実収入額の計算、立証が困難な者に限定されるべきところ、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和三〇年一月二一日生れで事故当時一七歳であつたが高校を中退し、当時は父の印刷の手伝いをして働いており、給料としてオートバイ(乙車)の月賦代金(この代金は原告本人尋問の結果では明確ではないが、証人服部勇の証言と成立に争いのない乙第七号証によれば月二五、〇〇〇円と推認される)を控除して月七万円位得ていたことが認められるから、原告の収入は月九五、〇〇〇円であつたということになる。してみれば事故当時、既に収入を得ていた原告としては、右収入額が当時の同年齢者の平均給与額より著しく低いとかの不合理の事実がない限りは、これを基礎として算定すべきであると思料する(なお現実の収入があるのに、なお統計表の数値によるべきであるとの点につき原告に特別の主張立証はない)。
ところで原告は前認定のような後遺症が残存しその症状固定日は昭和四九年八月八日であり、これにより第九級の認定を受けていることから、その喪失率は三五パーセントとすべきであり、原告本人尋問の結果によれば右固定日迄の間は入院や通院治療のため全く就労しておらず実際に就労したのは昭和五一年九月一日からであることが認められこれを左右するに足る証拠はない。ところで一般に症状固定日から直ちに就労可能だとはいえない。蓋し従前の職に当然復帰し得るとはいえず転職のため或いは適職をさがすため、或いは受傷内容、後遺症によつては所謂リハビリテーシヨンも必要であり、これらのために相当期間を要することは一般的に推認し得るからである。原告本人尋問によれば右固定日から就労するまでの間、三ケ月位は奈良の天理教で修行し、その後も三、四ケ月位、後遺症のため家で治療(馴らす意味)していたことが認められこれを左右するに足る証拠はない。してみれば原告の右相当期間は事故日の昭和四七年三月二一日から症状固定後の昭和五〇年二月末頃迄の半年余とするのが相当であると思料する。以上により原告の逸失利益を算定すれば次のとおりとなる。
イ 休業損害(昭和四七年三月二一日から同五〇年二月末迄の二年一一ケ月間)
三、三二五、〇〇〇円(95,000円×35ケ月)
ロ 労働能力喪失による損害
昭和三〇年一月二一日生れの原告は昭和五〇年二月末で二〇歳だからその就労可能年数は四七年で、これに応じた新ホフマン係数は二三・八三二であるからこれらを乗じて損害の現価を算出すると、九、五〇八、九六八円
(95,000×12×0.35×23.832)
2 家族付添費
前記認定のように原告は本件事故による負傷のため中濃病院に一回目一八七日間入院していたのであるが、原告本人尋問の結果および前記認定の原告の症状からしてこの間附添を必要とし、この間、原告の母が附き添つたことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。してみれば原告は現実に附添料を支払つたわけではないのであるが、右附添を必要とする傷害を蒙つたことにより既に損害は発生したものというべく、その損害額は一般の附添婦の日当相当額と同額とみるのが相当である。ところで原告が入院していた昭和四七年三月から同年九月当時の附添婦の日当が原告主張の一、〇〇〇円を下らないことは現段階では当裁判所にとつて顕著な事実である。したがつて一八七日間の附添料として原告は一八七、〇〇〇円の損害を蒙つたものと認められ該認定を覆すに足る別段の証拠はない。
3 入院雑費
前記認定の如く本件事故による受傷のため原告は中濃病院に前後通算して二六九日間入院していたものである。ところで一般に入院期間中、入院に伴つて必要とする日用雑貨品等を購入することは社会通念上も十分推認できるところであるから、これらに要する費用を雑費として一日三〇〇円程度は要したものとして算定するのを相当と認める。この割合によれば八〇、七〇〇円となる。
4 治療費関係
証人服部勇の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証の一ないし二九、第六号証と証人服部勇の証言を総合すると、被告会社は、原告の治療費として中濃病院等へ合計一、六〇九、九三七円を支払つていること、及び原告受傷による装身具代として松本義肢製作所へ二八、五五〇円を支払つていることがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。又、被告会社が原告の治療費として岐阜歯科大学病院へ合計四四六、二九三円を支払つていることは当事者間に争いがない。してみると、原告の治療費等は合計二、〇八四、八七〇円となる。
5 以上1ないし4の合計一五、一八六、四四八円が、原告が本件事故によつて蒙つた弁護士費用を除く財産損害ということができるが、本件事故については原告にも前記認定のような過失があるからこれを斟酌すると、原告が被告に対し請求し得る右損害は九、一一一、八六八円(15,186,448×0.6)となる。
(二) 慰藉料
原告の前記認定の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害、原告の過失その他諸般の事情を考慮すると原告の本件事故による精神的苦痛に対する慰藉料は二〇〇万円とするのが相当である。
(三) 損害額の確定
原告が本件事故によつて蒙つた損害総額は右認定(財産損害九、一一一、八六八円と慰藉料二〇〇万円)の合計一一、一一一、八六八円となるところ、原告が本件事故に関し自賠法による保険から一三一万円と被告会社から二五、〇〇〇円の支払をすでに受けていることは当事者間に争いがない。また(一)の4で認定したとおり被告会社はすでに二、〇八四、七八〇円を支払つているのでこれらを差し引くと七、六九二、〇八八円
(11,111,868-131万-25,000-2,084,780)
となる。
(四) 弁護士費用
以上により原告は被告に対し各自七、六九二、〇八八円を請求し得るものであるところ、弁論の全趣旨によれば、被告らがその任意の弁済に応じないので原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任したことが認められるが、本件事案の内容、審理の経過その他諸般の事情を考慮すると、被告らに賠償せしめるべき金額は三五万円をもつて本件事故と因果関係ある損害として認めるのが相当である。
五 (結論)
以上の理由により、本訴請求は、そのうち原告が被告ら各自に対して八、〇四二、〇八八円およびこのうちから弁護士費用相当額を除いた七、六九二、〇八八円に対する本件事故発生の日である昭和四七年三月二一日から、弁護士費用については本判決言渡日である昭和五三年五月三〇日より各完済まで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める限度においてこれを認容し、その余の請求はこれを棄却する。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 三関幸男)
別表
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